clinical

岡本一真先生

留学施設:Onze-Lieve-Vrouwziekenhuis (OLV clinic)

留学施設: Aalst, Belgium

留学期間:2007年5月から2008年6月

留学に必要だった資格:なし。ベルギーでは原則として、大学病院においてのみ外国人がテンポラリーの許可で臨床に従事することが認められていて、特別な試験などを経ずに当局のその時々の判断でこのテンポラリーの許可がなされます。しかしながら、ヨーロッパ全体にそうですが、外国人排除の傾向が強くなるとともに医師に関しても外国人に対する許可は出にくくなっているようです。私の場合も、一度目の申請は却下されています。理由としてOLV clinicが大学病院ではないということもあるのですが、現実的には大学病院に準ずる臨床・臨床研究を行っているので、粘り強く交渉したところ、結局、心臓外科のボスが当局に電話を1本してすぐに許可が出たという経緯がありました。今後同じようなことが可能かもしれませんが、難しいことは間違いないです。

留学中の立場:resident(と言われてましたが、米国でいうところのfellowでしょうか)。
OLV clinicの心臓・胸部・血管外科は、
スタッフ:4人
resident:3〜4人。心臓外科の修練中。ただ、OLV clinicの場合は外国人が低侵襲手術を勉強しにしているケースが多く、それぞれの本国ではスタッフとしてのポジションを持つ、完成された外科医であることが多い。
assistant:2〜3人。いわゆる外科系研修医。1〜5年目くらいで一般外科・胸部外科・整形外科・救急などをローテーションするシステムになっている。心臓外科に進む人とは限らない。
で構成され、これだけの人数で、手術、病棟、外来をカバーしています。
residentは外国人であることも多いため、基本的には手術室のみで働くことになります。例外として、3週に一回くらい(residentの数による)で回ってくるオンコールの週は、夜間・週末の救急外来、病棟回診などをassistantとともに行います。

留学施設の特徴:当院はいわゆる教育病院ではなく、private hospitalではあるが、各科、先進的な医療を提供するべく努力をしている病院で、ベルギーの中では有力な病院の一つです。その証拠として、手術ロボット DaVinciを2台所有していますが、一つの病院で2台所有したのはヨーロッパで一番早かったそうです。特に心臓外科は国内外での評価が高く、年間900?1000例の開心術、大動脈手術を行っています。とくに低侵襲手術に焦点を置いており、ポートアクセスによる僧帽弁・三尖弁手術(260例)の他に、胸骨部分切開による大動脈弁置換術(70例)やロボットによる内胸動脈剥離と組み合わせたMIDCAB(20例)、さらに大血管・末梢血管ステント治療(100例)、経心尖部的大動脈弁置換術なども積極的に行っています。今後は心不全治療に力をいれる方向でVADのプログラムを本格的に開始したところで、現在では年間5例程度の心臓移植も、今後は増加が予想されています。また、心臓・大血管・末梢血管・呼吸器の各領域が全く一つの部門として機能している点でも、細分化のすすんだ現在では珍しい形態ですが、逆にこの体制を維持しているからこそ、経心尖部的大動脈弁置換術のような特殊な治療がスムーズに導入できるわけで、これからはむしろいろいろなアドバンテージが生まれるのではないかと感じました。

留学中の経験症例数
週に6-8例の開心術において第一助手を努める。(うち半分程度はポートアクセスによる低侵襲僧帽弁手術。)
CABG症例では静脈の採取を行う。(ITA採取は術者が行う。)
他に末梢血管手術(血管内手術・ステントグラフトを含む)および呼吸器外科手術に週5-8例程度、第一助手として参加する。
基本的には手術を二人でやるのに常に第一助手として300例前後の手術に参加できるという点で基本的なトレーニングとしては理想的な環境ですが、決して術者になることはないし、スタッフのメンバーもskin to skinでやることを好みますので、体外循環の準備なども自分でやる機会はかなり限られるということを考えると、一般に留学を志す事の多い、手術をあまり自分でしたことのないレベルの方には不向きかとも思います。

体験談
まず結論から述べるとすると、自分自身にとってこの留学は不可欠であったといえるでしょう。ベルギーに渡った時のレベルがあまりに低かったということもありますが、毎日毎日、心臓の手術に入ることで、心臓外科手術の基本的な考え方(適応、手術計画、解剖や糸結び、持針器の使い方などの基本中の基本ともいえる手術手技など)をもう一度白紙から学ぶことができたということが一番の収穫かもしれません。

そのほかにも良かった点がいくつかあげられます。
1)世界で一流といわれる人達の手術を身近に勉強でき、心臓外科の最先端の情報のやりとりを目の当たりにすることができた。
2)僧帽弁形成術について詳しくなった。
3)世界中から集まるレジデント同士で手術手技における小さなコツを教えあったり、どこにうまい外科医がいるのかとか、それぞれの国の心臓外科の事情といったものを非公式なレベルで(一般に知られているのと実情が違うことはよくあることです)知ることができた。これからも彼らとのやりとりは大きな財産になることでしょう。
4)実力不足の状態での厳しい視線に耐え、いかに信頼してもらえるようになるかという精神的な面で鍛えられた。少なくとも日本でやっていく上で大きな自信になった。
5)CABGの数が世界的にも激減している中でactiveな心臓外科センターを維持していくために、どのようなことを考えていかねばならないかについてヒントがもらえた。
6)少ない人数で効率的に手術をこなしていくための工夫や優秀なチーム作りの大切さを知った。
7)これだけ手術をやっている施設と比較しても、日本の心臓外科のレベルは決して劣る物ではないということがよく理解できた。
8)不真面目な理由ですが、ヨーロッパの中心であるベルギーを拠点にすることで、ヨーロッパ中を旅行でき、食・自然・建築といった、ヨーロッパ文化の良さを満喫できた。

逆に反省点としては、まずは、きちんとしたトレーニングプログラムのあるところ(米国やオーストラリアのように)に行くべきであった。その後、ここに来ればもっと学ぶことが多かったかもしれない、ということにつきるかと思います。

冒頭に述べたように自分自身はとてもよい経験ができたと思いますが、これは全員の人に当てはまることでは決してないと思います。かなりの精神力と少々の運が必要になると思いますので、他の人にお勧めできるかと聞かれると、はっきりyesと答えるのは難しいかもしれません。

最後に、この施設に限ったことではなく、どこの施設に留学してもそれぞれ問題があるもので、完璧な留学先というものはなかなか存在しないものです。ということは、まず、ともかく、どこでもいいから一度外国の施設に飛び出してみる、そして、そこで考えたことをもとに次の身の振り方を考えるくらいのつもりで留学に出ても悪くはないのではと思います。留学に行きたい行きたいと思いながら結局留学に行かずに日本での足場が固まってしまうというのは、総合的にみればハッピーな結果ではありますが、一方では残念な思いが残ることなのかもしれません。1年や2年の回り道は日本で地道にやっていてもしばしば起こることです。どうせ無駄足を踏むなら海外で、という気持ちで、あまり気負わずに気軽な気持ちで海外の病院にでかけてみることをお勧めいたします。

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