臨床留学情報


森 誠 先生

留学施設 Yale University
留学期間 2015年7月~2018年6月現在
留学に必要だった資格 ERAS match, Step 1, 2
留学中の立場 Integrated cardiothoracic surgery resident
留学施設の特徴 3病院、成人ICU23床、年間成人症例1500例
留学中の経験症例数 下記参照

私は高校進学の際に単身渡米し、2015年に米国エモリー大学の医学部を卒業しました。ERAS のマッチングを通してイエール大学の胸部心臓外科6年一貫プログラム(I-6)に入り、レジデントの3年目を終えるところです。臨床留学と形は異なりますが、6年プログラムの紹介も兼ねて一例として参考にしていただければとても幸いです。

アメリカでは従来、5年の一般外科レジデンシー(+2年のリサーチ)の後2−3年の胸部心臓外科フェローシップを行い、その後アテンディングとして独立する、というモデルが主流でした。脳外科や整形外科などは、医学部卒業後に直接専門外科にマッチして5−6年の一貫のトレーニングを受けるという流れを早くから確立しており、近年の心臓外科一貫プログラムへの移行はその影響をうけています。ただ、6年一貫プログラムは2000年代後半に発足してから増加し続けていたのですが、2014年以降30前後で停滞しており、従来の一般外科レジデンシー+胸部心臓外科フェローシップのモデルが完全に無くなることはしばらくなさそうです。

プログラム毎に差はありますが、イエールの6年プログラムでは前半3年の内18ヶ月は一般外科のローテーションに費やされます。ここで言う一般外科は消化器外科、血管外科、腫瘍外科などを含み、この期間は幅広い科を広く浅く学ぶことと基礎的な外科手技を身につけることを目的としています。皮膚縫合を学ぶところから始まり、18ヶ月間の終わりまでには透析シャント、虫垂炎切除、胆嚢摘出、鼠蹊ヘルニア等を10−20例ずつ、トータルで170例程を術者として経験します。一般外科のレジデントと症例の取り合いになってしまうマイナスな一面もあるのですが、イエールのように6年プログラムが比較的新しく、従来の外科医6−7年目のフェローしか育ててこなかった場合には外科医としての基礎を初期研修医に教えるノウハウが無いため、このような一般外科と合同で行う初期のローテーションは重要な役割を果たしています。

前半3年の残りの18ヶ月は胸部心臓外科関連のローテーションが組まれており、胸部外科9ヶ月、心臓外科9ヶ月の割合で周ります。心臓外科では最初の3ヶ月程で開胸を30−50例ほど経験し、9ヶ月が終わるまでには1人でITA採取、カニュレーション、閉胸をする機会が与えられます。パフォーマンスによってはその後継続して手術を任せてもらえるようになる形です。私は教育者として名高い先生と運良くマッチアップし、前半戦最後の9ヶ月目にしてようやく、開胸、ITA採取、カニュレーション、閉胸をルーティンで行える様になりました。カニュレーションを終えると術者側から降りて第一助手に周り、ときどき中枢吻合やキリのいい箇所を反対側からやらせてもらっています。イエールの6年一貫プログラムは始まってまだ5年目なので、アテンディング側もどこまでレジデントに任せるかは手探り状態ですが、年々安定してきてレジデント間での手術経験の差は縮まってきていると感じます。他のプログラムには3年目にしてMitral/aortic の二弁置換を最初から最後まで執刀したという猛者もいるらしく羨ましい限りです。

イエールの心臓外科グループはYale-New Haven Hospital を主幹病院とし、服役軍人病院であるWest Haven VA, コミュニティーホスピタルとしての色が強いBridgeport Hospital の三カ所で心臓手術を行っています。グループ全体で年間約1,500 例の心臓外科手術を行っています。内容としては、大動脈の大御所であるDr. Elefteriades が健在で、thoracoabdominal含むバラエティーに富んだ複雑症例を抱えています。2017年に40代の若さでSection chief として抜擢されたDr. Geirsson はオールラウンドな外科医で、バイパス、弁膜症、解離を含む大動脈全般、右小開胸での僧帽弁形成、robotic CABG、robotic mitral、リングを使った大動脈弁の形成等にも最近進出し、今年度は350例に届く勢いで幅広くやっています。教育にも非常に熱心で、フェローやレジデントの手術経験は量と質共に彼のオペ室が一番高いです。イエール心臓外科研修プログラムのレベルは決して高くはなかったのですが、彼がチーフに就任したことで様々な改革が行われ、全く新しいプログラムとして生まれ変わりました。イエールを一流の研修施設にしたいという強い熱意があり、周りもそれに引っ張られる形で一流施設になる兆しが見えて来た感じがします。TAVRは2011年に開始以来年々増加傾向にあり、今年度は250例程だろうと言われています。ほとんどはTF-TAVRですが、 APOLLO trial参加施設であるためTMVRも比較的頻繁に行われており、先日はTMVRのvalve-in-valveがありました。心不全はLVADが年40−50例程、移植が15例前後、ECMO20−30例と少ないですが、新しいアテンディングがこの夏から就任するので楽しみです。

研究に関してはアイビーリーグ校の強みがあり、大学院と共同研究をしたり、統計サポートを受けたり、複雑な解析をつかったアプローチ等を学ぶこともできます。病院を一歩出れば専門家が至る所におり、アイデアとやる気さえあれば論文執筆にはとても恵まれた環境だと感じます。心臓外科グループ内での基礎研究では、Dr. Tellides がNIHのR01を持っており大動脈瘤の生物力学に関する研究が活発です。臨床研究ではDr. Elefteriades のグループから大動脈瘤と解離に関する論文が毎年40本以上出ており、海外から無償で数年研究におとずれるポスドクが後を絶ちません。私も加わっているDr. Geirsson をリードとしたグループはまだ若いですが、研究予算が潤沢で、STSや州・国レベルのデータをどんどん買い付けて論文が出はじめているところです。私はこの夏から臨床を数年離れ臨床研究で博士課程へ進みますが、教育と研究に相当な資源を投入して下さったDr.Geirssonのご指導のおかげでチャンスを得ることができました。

留学自体に伴うストレスや障壁は高校や大学で経験していたため、臨床医になる際に強く感じることはありませんでした。ただ、ビザに縛られる留学生という立場は医学部受験とマッチングで痛感しました。もちろん実力が及ばなかったまでのことなのですが、マッチングでは挫折を味わい、その節はこの臨床留学体験記にも執筆されているMt. Sinaiの板垣忍先生とコロンビアの高山博夫先生に電話越しに涙を拭いていただきました。また、私が医学部生だった頃エモリーでフェローをしておられた細羽創宇先生には、心臓外科医の面白さを教えて頂き様々な局面で背中を押してもらいました。先生のおかげで今の自分があります。そろそろアメリカ在住期間の方が長くなってきてしまい本当に日本人なのかと怪しまれることも増えてきましたが、日本人の先生方のコミュニティーと関わりを持たせて頂けることはとても光栄です。微力ながらお力になれそうな事がありましたらいつでもご連絡ください。

森 誠

メール :  makoto.mori AT gmail.com (AT → @)
Twitter:  @mori_md