西村 崇 先生

留学施設: Emory University Hospital, Atlanta, GA

留学期間: 2009年4月~2012年3月

留学に必要だった資格:ECFMG certification(step3不要)

留学中の立場:clinical fellow

留学施設の特徴:
Dr. Guyton, Dr. Puskas, Dr. Thouraniなど世界的に有名なtop surgeonsが在籍するアメリカ南東部最大の心臓外科施設。全米でもOPCAB率が高く、robotic surgeryやTAVIなど最新手術も手がけている。正規レジデントのプログラムは質が高いことで有名だが、外国人フェローは異なるローテーションとなる。

留学中の経験症例数:
執刀200例 助手400例 (胸部外科手術を除く)

体験談

 大学卒業前に京都大学心臓外科の見学へ行った際に、そこで研修医をされていた甲斐先生( Westchester Medical Center)に勧められてUSMLEの勉強を始めました。2003年に東京医科歯科大学卒業と同時にUSMLE STEP1を取得し、京都大学の医局へ入局しました。卒後1年目に麻酔科ローテーションの3ヶ月でStep2CKを取得した後は暫くUSMLEから遠ざかっていました。2007年に医局の仲間であった板垣先生( Mount Sinai Hospital)が、続いて2008年に1年先輩の甲斐先生が渡米され、自分も臨床留学をしたいという思いを強く持ち出しました。2008年6月にUSMLE Step2CSを取得すると同時に研修施設を探し出しました。現在アメリカで心臓外科フェローのポジションは比較的空きがあるため、日本で少し経験があれば探せばどこかはみつかります。私もいくつか返事をもらった中から、2施設面接に行きEmoryでの研修を決めました。研修施設を決める際は、東京女子医大の津久井先生、大阪大学の吉川先生を始めたくさんの先生に相談させていただきました。決まってからは、一刻も早く渡米したかったのですが、VISAの手続きに時間がかかり、結局2009年4月からの研修となりました。この研修開始に関しては、当時勤務していた新葛飾病院(現IMS葛飾ハートセンター)の吉田先生、神戸中央市民病院の小山先生、京都大学坂田先生の協力を得て実現できました。

 2009年4月より晴れて研修が始まりましたが、初めての海外生活、英語もまともに話せない自分にとって、はじめの3ヶ月から6ヶ月は想像以上に過酷な毎日でした。研修開始後3週間から当直が少しずつ始まりましたが、看護師と電話で話しても相手が何を言っているか分からないし、薬の名前や量も日本と違うのでいちいち本で調べなくてはならず大変でした。当直の日は一日30回も40回もコールがあり、特に患者からの直接電話は何を言っているかわからず本当に苦痛でした。一方、手術室では日本と違ってすぐに開胸から内胸動脈採取、カニュレーションまで一人で任されるようになり、CABGの遠位側吻合も徐々にやらせてもらえるようになりました。基本的に研修内容は池上先生と同じなので、池上先生の体験記も参照してください(自分の経験数は胸部外科手術を除いて書いています)。

 外国人フェローは正規アメリカ人レジデントとは異なるローテーションであるため、変則的でしたが、結局Emory University Hospitalに14ヶ月、Emory Univeristy Hospital Midtownに14ヶ月、Grady hospitalに8ヶ月のローテーションでした。研修内容、手術の選択権は基本的に9人の正規レジデントが優先されるため、フェローが入る症例はほとんどがCABGでした。Attendingによるものの最終的にはCABGはOff Pumpを含めてほとんど自分で執刀できるレベルまで教えてもらえましたが、残念ながら弁や大動脈、移植など症例数の少ないものはフェローにはほとんど回ってこず、十分な経験はできませんでした。これらの症例は正規レジデントがローテーションしないGrady Hospitalで経験することができるのですが、この病院は症例数が少なく年間心臓手術は70-90例です。自分はGradyの8ヶ月で、心臓手術40例程度執刀し、弁手術、大動脈手術も少しですが経験できましたが、mitralの経験は非常に限られたものでした。

 2年目の後半から3年目にかけて、CABG中心の手術に物足りなさを感じ始め、エモリー大学の研修が終わった後もアメリカで研修を続けたいという気持ちが強くなりました。また、他施設で研修をされている先生方の話を伺い、自分の現状に満足できない部分が多くなり、よりよい環境での研修をしたいと思うようになりました。そこで、エモリーでの研修3年目に入った2011年にUSMLE STEP3を取得しました。これによって次の研修先の選択肢が広がりました。また、研修を続けたいと言う話をAttendingにしたところ、非常にポジティブな推薦状を書いていただくことができ、これも次の研修につながったと思います。また3年目には、2ヶ月間TAVIフェローとして、TAVIチームの一員として2ヶ月で25例程度のTAVIにかかわることができました。USMLE step3に関しては、Emoryでの研修には不要ですが、渡米前にできるだけ取って置く事をお勧めします。その理由は、研修施設の選択肢が広がる事とH VISA取得が可能だからです。Step3がなければ基本的にはJ VISAでく渡米することになりますが、J VISAは色々と制約が多いためできるだけH VISAを取得したほうが良いです。ただ、step3がなくてもH VISAを取得している先生もいるため例外はあるようです。

 エモリーでの3年間を振り返ると、本当に厳しい毎日でした。当直が月8から12回程度あり体力的に厳しかったと言うこともありますが、自分にとっては精神面がもっと厳しかったです。特に、エモリーは他のプログラムに比べても正規フェローを優先する傾向が非常に強いため、色々な局面で我慢を強いられました。自分の中で他人と比べることをしないように心がけましたが、やはり自分より後から来た1,2年目のアメリカ人がよい経験をさせてもらっているのを横目に見るのはつらいものでした。ただ、プログラムを終えて、正直3年前の自分と比べて成長を実感でき、お世話になったAttendingに感謝しています。

 正規レジデントはエモリーのプログラムでそれなりに一人前になりますが、フェローは独り立ちできるレベルまでの経験を積むことはできません。一言で言うのならば、EmoryのFellowship Programは心臓外科として初級者を中級者に育てるプログラムです。実際には、1,2年の研修でその目標は達成されるので、3年目には間違いなく物足りなくなります。上記の通り、CABGは十分ですが弁や大動脈、移植などの経験は十分に積むことはできないので、あと1,2年の追加研修をするのが理想的だと思います。アメリカのプログラムによっては中級者を上級者レベルに育てるプログラムもありますが、そのようなプログラムに日本から直接入ることは難しく、大抵の場合アメリカでの経験に加えアメリカ人からの推薦状が必要になります。

 Emoryの心臓胸部外科は、昨年より胸部外科専門のレジデントのプログラムができ、また今年から6 year programが導入されるため、今後正規レジデントの数が9人から13人に増えます。そのため、外国人フェローの数は減らされることが予想されますし、また外国人フェローが症例を得るのがますます難しくなる状況が予想され、外国人のトレーニングプログラムとしては質が低下することが懸念されます。

 アメリカでよい研修の経験を積むためには、資格、継続、努力、コネクション、情報、運など色々な要素が必要となります。私が提供できるのは情報のみですが、もし質問などがありましたら遠慮なくメールください。研修という意味だけでなく、海外での生活は家族の絆を強め自分の世界を広げる非常によいチャンスだと思います。リサーチフェローであっても、兎に角人生において一度海外生活をするということを強くお勧めします。