太田 壮美 先生

留学施設: University of Pittsburgh Medical Center

留学施設(住所): 200 Lothrop St, PUH C-700, Pittsburgh PA 15213

留学期間: 2005-2008 research fellow, 2008-present advanced cardiac fellow, 6-month rotation to the heart/lung transplant and VAD service

留学に必要だった資格: Institutional license, O-1 visa, (USMLE)

留学中の立場: as above

留学施設の特徴: about 1200 cases in entire UPMC

留学中の経験症例数: 2008.7-2010.10   540 cases

術者: 300

第一助手: 240


リサーチフェロー:
私は神戸大学医学部出身で同大学の心臓血管外科に所属しています。大学院に進んで臨床及び研究に日々精進し、博士号の取得がほぼ決まった折に、ピッツバーグ大学の心臓外科医の一人がリサーチフェローを募集していることを知りました。 所属科の教授の承諾を得て、応募してみたところ、まわりの方々の協力もあり、2005年に研究留学するチャンスを得ました。
私が所属したラボはボスと私の二人だけで、ボスはほぼ毎日手術をしているため、研究においては私が一人で切り盛りすることになりました。ゆえに、研究の立案、グラント作成、動物実験、評価、コラボレーターとの打ち合わせ、抄録の作成、学会発表、論文作成、特許出願、および各過程におけるたくさんの書類業務をinitiativeをとって行うことは、非常によい経験となりました。
リサーチフェローの3年間で研究発表のために、アメリカ国内、カナダ、メキシコなど約20カ所の都市をまわって、いろいろな文化や人々に触れられたことは、非常に衝撃的なことも多く、良い人生経験となりました。当初、忙しさのあまり完全に準備不足で渡米してしまった私は、英語もさっぱりしゃべれなくて大変苦労し、また異文化に圧倒されてしまう状態でしたが、コツコツと自分に足りないものをたしていく努力と、アメリカ人の外国人を受け入れる寛容さのおかげでなんとか切り抜けることができました。この意味においても、個人的にアメリカ研究生活の3年間は、後のクリニカルフェローへとつながる必要不可欠な期間であったと思っています。

クリニカルフェロー:
皆様もご存じのとおり、日本における心臓外科医教育の問題点は根が深く、詳細は割愛しますが、私自身は自分のまわりにいる諸先輩方、教授、院長といった自身でアプローチ可能な方々に相談したところでとても解決はできない問題であると思っておりました。私が日本にいた時に、自身が心臓外科医を志すにあたり、その成否を運、不運に任せたくないと昔から思っており、また自分に心臓外科医を名乗る器があるのかないのかすら分からない状況に、日々悶々としておりました。
日々多忙の中、漠然と海外でのトレーニングは不可欠ではないだろうかと思っていた折に、研究留学のチャンスをいただいたので、それを機になんとか臨床に潜り込めればと就職活動を約2年間にわたって行い、なんとか2008年よりポジションを取ることができました。もちろんこのポジション獲得にあたっては、日本、アメリカを含め諸先輩方のサポートがあったからこそというのは言うまでもありません。
University of Pittsburgh Medical Center の心臓外科は3ー4つの病院に分かれており、各サービスでそれぞれ年間150から600例の手術を行っています。私のオフィシャルポジションはadvanced cardiac fellow で、アメリカで5年間の外科レジデント、その後の2年間の胸部外科レジデントを終えた人が、さらに心臓外科に特化したトレーニングを受けるためのプログラムとして設計されています。基本的には胸部外科レジデントにまじって、各サービスをローテーションするのですが、胸部外科レジデントが肺や食道外科もローテーションする一方、このフェローは心臓外科だけをローテーションします。
仕事内容ですが、当プログラムでは胸部外科レジデントと同じ職務をこなしますが、レジデントが週80時間までしか働けない制約がある一方、フェローはこの限りではありません。典型的な1日としては、朝3時から4時くらいに起床し、朝のラウンドが始まる6時半までにすべての患者を回診、診察しその日のプランを決めます。朝の回診ではそのプランについて相談し最終プランを決定、それを集中治療医、PA/CRNPに申送ります。その後、7時半ごろからオペ室に行き、1ー2例の手術をこなします。その後、ICUや病棟でその日のプランがどうなったかを確認し、患者の状態により何かを追加して処置、検査等を行う必要があるか検討し実行します。また、その日に来た他科からのコンサルトを診に行き、プランを立案、上司と相談後、プライマリーチームに意見を伝えます。その後、翌日の手術の予定を確認し検査等をチェックして術式を立案し翌日に備えます。同時にその日に行われた手術患者の術後経過が順調であるかどうかを確認し、落ち着いているようであれば、晴れて帰宅することができます。
基本的に、病棟は日中はPA/CRNPが、夜間は当直医が、ICUは日中は集中治療医、夜間は集中治療医もしくは当直外科医が主力となって管理してくれるので、手術に集中しやすい環境ではあるのですが、患者管理の最終責任は自身にあるので、常に各チームとコミュニケーションを取り合っていくことが要求されます。これは日本人が最も苦手とすると思われる分野で、慣れるのに非常に時間がかかりました。私自身は研究生活の3年間がなければ,この件に関しては成し得なかったと思います。
手術手技などhands-onに関してですが、個々の外科医により違いはあるものの、基本的に[教え好き]で[教え慣れ]ている印象です。卓越した外科医は第1助手の位置から、未熟な外科医をコントロールし、自分の思うように手術を進行させる能力を持っています。また、なぜ自分がこうしたいか、こうする必要があるのか等をずっとしゃべり続け、少しでも針の角度や、運針が気に入らなければ厳しく注意されます。皆まで言うな、見て学べ、等の日本の文化とは違った教育システムであり、限られたトレーニング期間でそれを過ぎてある一定の技術基準に満たない者は廃業を余儀なくされるアメリカならではの文化であると思います。

最後に:
アメリカにおいて、研究、臨床を問わずポジションを確保し、それを維持更新していくのは、多大な努力を必要とすることと思います。しかし、そういった環境に身を置くことで自身の短期、中期、長期の目標をしっかりと持つことができ、その目標達成のために自分が今日何をしなくてはいけないかをしっかりと自覚することができました。来年のポジションが不透明で失職するかもしれない不安定さの中にあっても、具体的な目標を持ち、日々それに向かって努力できる環境は非常に心地よいとさえ感じてしまいます。最後に、執筆の機会を与えていただいて大変感謝しております。私の体験談が、どなたかの役に少しでも立つようであれば幸甚です。