坂口太一 先生

留学施設コロンビア大学(New York Presbyterian Hospital)、 NY

留学期間 1999年9月~2007年7月(うち臨床留学は2002年9月~2007年7月)

留学に必要だった資格 ECFMG certificate, USMLE step 3

留学中の立場 Postdoctoral Research fellow, Visiting clinical fellow, Junior attending (instructor)

留学施設の特徴 2000 cases / y (adult 1400, peds 600)

留学中の経験症例数
術者 850
第一助手 500

コロンビア大学附属病院での心臓外科臨床経験

 コロンビア大学附属病院(New York-Presbyterian Hospital) はニューヨークマンハッタン島の北に位置しており、全米病院ランキングで7位に入るアメリカでも有数の医療センターです。クリントン前大統領の冠動脈バイパス手術がCraig Smith教授と大阪大学出身の中好文先生によって、ここで行われたことをご存知の方もおられるかもしれません。私は2002年9月より2007年7月まで、約5年に渡って成人心臓外科の臨床に携わりましたのでご紹介したいと思います。

コロンビア大学では年間に成人1400例、小児600例の計約2000例の心臓手術が行われています。成人手術の内訳はCABGが1/3、弁膜症が1/3、残りの1/3が大血管や心移植、補助人工心臓(VAD)などとなっており、バラエティーに富んでいるのが特徴です。特に中先生が責任者をつとめる心臓移植、補助人工心臓部門はそれぞれ約100例、50例と全米一の症例数を誇っており、名実ともに全米でも有数の心不全治療センターとなっています。そのためPrivate Hospitalでは手に負えないような重症患者が多く紹介されており、低心機能や再手術などのハイリスク症例が多いのも特徴です。

成人心臓外科部門には、attending surgeonが6人、その下にsenior fellowが2人、さらにアメリカ胸部外科学会認定fellowが2人(うち1人はchief fellow)います。だいたい1日に6-8例の開心術があり、ほぼ毎日1-2例の手術に入ることになります。senior fellow とchief fellowは、ほぼ全例術者として手術を執刀できるので、手術のトレーニングいう点では非常に良い経験が出来ます。

私自身の経験としては1年目はほとんど第一助手でしたが、開胸閉胸、内胸動脈採取、カニュレーションなどはPA(Physician Assistant)を相手に一人でしなければならず、CABGの場合右冠動脈吻合は助手の役目だったので、それだけでも十分勉強になりました。半年を過ぎた頃から執刀症例も増えていき、最初は週1例だったのが、2年目には週2-3例、senior fellowとなった3年目以降は週5-6例になりました。低心機能例や再手術なども多く、それらの執刀経験を数多く積む事ができたのも大きな収穫でした。また後半はJunior attending staffとして心移植や院内紹介例などをfellowを指導しながら手術をするという機会にも恵まれました。

このように非常に充実した臨床研修を受けることができるのは、次世代の外科医を育てるためにfellowにできる限り執刀機会を与えようとするattending surgeon達のおかげであると思います。

CABGを執刀し始めた頃の話ですが、まだ慣れない末梢吻合に私が緊張していたのがわかったのか、あるattendingに"Taichi, do not be nervous. This is a fun operation. Enjoy it!"と言われ、目から鱗が落ちたような気がしました。一つ一つの運針について"Good stitch, I like it!!"などいちいち声をかけてくれるのも非常に励みになりました。そして手術が終わると"Good job, thank you for your help!"と握手を求めてきます。

手術中に何があってもリカバリーできるという絶対的な自信がなければ、訴訟社会のアメリカでfellowに執刀させる事はそう簡単ではないと思いますが、教育病院しての責任を果たすためにそのポリシーを貫いている彼らに改めて尊敬の念を抱かざるを得ません。

また反対にattendingからの信頼が得られないfellowは容赦なく途中でクビになるところもアメリカの厳しい所で、実際過去にfellowが3人たて続けに途中で辞めさせられています。生死に直結する外科手術の教育施設であるからこそ、フランクな中にも馴れ合いを許さない関係が求められるのだと思います。

また、心臓外科はチーム医療と良く言われますが、アメリカではそれが際立っています。術後は麻酔科や循環器内科が中心となって患者を見ますし、病状によって腎臓内科や感染症科、呼吸器内科など多くの医者が一人の患者の治療に関わってきます。それ以外にも理学療法士、栄養士、ソーシャルワーカーなど多くのコメディカルが役割分担しながら治療を支えており、チームリーダーとして統括するのが外科医の役目です。

彼らは各々のコンサルトに対しチャージできるので、日本で見られるような仕事の押し付け合いというものはなく、逆に多くのコンサルタントフィーをももたらす心臓外科が病院内で強い立場にある理由ともなっています。プロとしてお互を尊重しながら仕事しているせいか病棟の雰囲気も良いように思います。もっともその背景には多くのな医療費がかかっていることも忘れてはいけないと思いますが、医師にとっては働きやすい環境であると思います。

本場アメリカでの心臓外科研修は私にとってかけがえのない経験となりました。当初の目的であった手術技術の習得は言うまでもなく、プロフェッショナルな外科医とはどういうものか、医師としての新しい価値観を学べたのも大きな収穫でした。人種の坩堝であるNYという土地柄からか、メディカルスタッフは世界各国から集まっており、彼らとの交流を通して外から日本の医療を見る目を養う事が出来たのも良かったと思います。

アメリカでは心臓外科フェローのポジションは比較的余裕があり、外国人でもECFMG certificateさえあれば受け入られる余地は十分あります。圧倒的な症例数に支えられたアメリカの心臓外科研修を多くの人が経験される事を期待してやみません。

 

写真


1)New York Presbyterian Medical Center
2)手術室にて。日本人外科医2人よるがアメリカ人の手術。ここが 
NYとは思えない??(左:中好文先生 右:筆者)