荒川 衛 先生

参加学会: 第31回ヨーロッパ胸部心臓外科学会EACTS
(European Association for Cardio Thoracic Surgery)

開催日時: 2017/10/7-11

開催国: オーストリア, ウィーン


第31回ヨーロッパ胸部心臓外科学会(EACTS)の参加レポートです。
心臓血管外科をまだ専門としていない方にもわかりやすく書きました。
ヨーロッパ胸部心臓外科学会(EACTS)は、ヨーロッパ最大の胸部心臓外科領域の学会で、
European Journal of Cardiothoracic Surgeryという雑誌の編集も行なっております。
ヨーロッパとアメリカの胸部心臓外科では日本で使用できない、デバイスが使用されています。
さらに1施設の件数も違うので、大規模なデータが存在します。
昨年はスペイン、バルセロナで開催され、今回はオーストリア、ウィーンで開催されました。
ヨーロッパで使用できるデバイスはCEマーク、アメリカで使用できるデバイスはFDAの承認、
日本で使用できるデバイスはPMDAの承認が必要で、ヨーロッパはデバイスを市場に出してから
淘汰するタイプで、アメリカは事前規制タイプ、日本はさらにヨーロッパとアメリカの動向を見て、
日本に適応できるかを判断してから承認しているのが現状です。デバイスが欠かせない、
心臓血管外科の領域においてはヨーロッパの臨床データが世界初となることが多いです。


1.Techno college
テクノカレッジは、新しいデバイス、新しい手術手技、ライブ手術を一つの会場で1日間かけて
発表、討論します。私は海外でライブ手術を見るのが初めて、非常に刺激になりました。
ライブケースは3Dで専用のグラスをかけて、ビデオを見ます。
昨年もそうだったようですが、私としては初めての経験でした。確かに臨場感は出ますがちょっと酔います。
ドイツのライプツィッヒ(Leipzig)大学病院が複数のライブケースを提示していました。
それとLive-in-a-boxが10演題以上あって凝った動画が放映されました。
日本との大きな違いでもありますが、ビデオやライブ、また新しいデバイスの紹介など、
高度な編集技術やCGを使用して、わかりやすいという印象です。
ドクターが編集しているのかはわかりませんが、プレゼンテーションに対する意気込みを感じました。
内容の総括としては 、弁膜症のライブケース、症例提示になるような手術はほとんどが
MICS(小切開による心臓手術:Minimum invasive cardiac surgery)もしくはカテーテル治療でした。
昨年の参加者からすると、昨年の内容の1年後といった印象らしいです。


2. 弁膜症
大動脈弁
MICS-AVRを二尖弁Bicuspidに行っていました。ValveはMedtronicsのAvalus Bioprosthesisという
生体弁でCoreKnotという、糸かけした後に、手で結ばないでリングをはめて縛るデバイスを
使用していました。
また、MICS-AVRでは弁尖を切り取って、Sutureless Valve
(人工弁を縫い付けないでステント付き弁を直視下で入れる)を入れる方法も紹介されていました。
東邦大学大橋病院 尾崎先生のAVNeoの発表がありました。AVNeoを若年二尖弁に対して行い、
三尖弁化した症例提示でした。AVNeoは尾崎法とも言われ、自己弁を切り取って自己心膜で弁尖を作成し、
大動脈弁を再建する方法で、人工弁を使用しません。手術時間は長くなってしまいますが、
長期の成績が徐々に出てきて良好なようです。TAVI(=TAVR,経カテーテル的大動脈弁置換術)の成績は
だいぶ成熟してきている印象ですが、日本では行うことができない、
二尖弁に対するTAVIが行われていました。ハイリスクでありプロテクションデバイスを使用していました。

大動脈弁に関してはハイリスクに対してTAVRでアプローチするところから中間リスクに対して
TAVRを行うのか、もしくはMICS-AVRでSutureless valveを使うのかという流れでした。

僧帽弁
僧帽弁閉鎖不全症(MR)には器質的MRと機能的MR があり治療戦略が大きく違います。
器質的MRは主に弁尖の逸脱(Proplaps)が原因となり、その部分を修復します。
それに対し、機能的MRは左室の拡大、弁輪の拡大が原因で、弁尖が引っ張られるTetheringや、
乳頭筋間の距離が開くことが原因になり、それを修復する必要があります。
TMVR(経カテーテル的僧帽弁置換術)に関しては複数のデバイスが紹介されていました。
TMVRは、心尖部アプローチが多く、経中隔アプローチでも使用できるデバイスの紹介もされておりました。
さらに僧帽弁の逸脱であれば、心臓の外から穿刺して逸脱部位に人工腱索を立てるデバイスの演題もありました。

僧帽弁に関してはMICSでどこまでできるか、Barlow‘s diseaseに対する弁形成をMICSでやった、
虚血性MRに対する僧帽弁形成をMICSでやったなどの演題もありました。


3. 冠動脈疾患
展開、視野に聴衆は興味を示していました。しかしながら、RITAをLITAに側々吻合しており、
ちょっともったいない気がしました。またRadial arteryの鏡視下での採取の演題もありました。


4. 大動脈
 ステントグラフトの学会ではなかったため、ステントグラフトの演題はあまりありませんでした。
注目されていたのはOpen stentで日本ライフラインのFROZENIXが初めて
EACTS Techno college取り上げられていました。またJ graftもCEマーク取得待ちのようです。
 Frozen Elephantとしては、Terumo社が出している4分枝付きのPlexusも使用されていますが、
サイズラインナップはFROZENIXの方があり、さらにワイヤーによる誘導もできます。
急性大動脈解離の発表では、川崎幸病院からのA型解離の手術件数と成績、
心尖部送血の発表では会場が湧いていました。また、A型解離では部分弓部置換で左総頸動脈まで
置換すればその後TEVARが行いやすいので良いという発表もありました。


5. トレーニング
 EACTSのOpening movieにもEducation, training とあるのに残念ながら
トレーニングセッションはあまり盛り上がりませんでした。Non believer と表現される、
Off the job トレーニングは意味がないという方もまだまだ多いというのが印象的でした。
 日本では心臓血管外科専門医取得の際に30時間が必要ですが、アメリカでは20時間、
ヨーロッパではまだ規定がないそうです。私も記事を書きましたが、
航空業界では必要性が重視されているOff the job trainingも心臓外科の分野では
世界的にもまだ市民権を得ていなようです。