日比野成俊先生

留学施設
Yale University School of Medicine
Section of Cardiac Surgery
Interdepartmental Program in Vascular Biology and Transplantation,

留学期間 : 2007年から現在

留学中の立場 : Postdoctoral research fellow

現在のアメリカ留学の意義―臨床医にとっての研究とは?

私が現在研究留学しているlabは、Vascular biology and Transplantationというチームの中に入っていて、その中には10くらいのlabが所属しています。このチーム内で血管に関する分子生物学的な基礎研究から臨床応用に至るまでの研究をcollaborationのような形で行っています。他のどこのlab meetingに参加するのも自由ですし、いくつかのlabが合同でmeetingを持ったりしています。我々のlabはその中でも研究内容がかなり臨床よりに近く、血管の再生医療の臨床応用を目指した研究をしています。

私は日本で一緒に臨床、研究を行っていた上司が心臓外科の臨床医としてYaleに移動した際にresearch fellowとしてこちらに来ました。はじめは研究で、しかも上司が日本人だから英語は何とかなるだろうと軽く考えていたのですが、こちらに来てみると、いろいろなセットアップから始まって研究のことまで初めてのことばかりで、しかも、Collaboration, discussion, presentationの機会が多く、英語には苦労する日々が続きました(今でもですが)。今考えてみれば当たり前のことですが、コミニュケーションが普通に取れないと、まともな仕事ができないのは、どこの国でも同じです。

しかし、そうした経験を通して、異文化を持つ人々と一緒に仕事をするとはどういうことなのかを学ぶことは非常に良い経験となっています。研究の内容的には、日本でもアメリカでもそんなにレベルは変わらないと思いますが、discussionしたり、collaborationをmanagementしたりする中で、ただ単なる言葉の違いを超えた物事に対するアプローチの違いを学べることには大きな意義があると思います。

我々のlabはPIが外科医であるため、Yale medical schoolの学生や、Yaleのgeneral surgeryのresidentがいます。学生はresearchに集中するため、1-2年卒業を延期して来ており、ここで業績をあげて少しでもよいresident programに入ろうとします。Surgical residentはYaleのresident programにresearchの期間が2年間義務付けられており、その間にon callを他の病院でやりながら昼間にlabで働いており、日本の大学院生と似た生活をしています。学生からポスドクまでおり、また理学部出身のPhD人もいたりして、みんなcareerが異なりますし、将来の目指す方向性も異なるので、そのような人と接するうちに、心臓外科医だけに囲まれていた日本にいたときに比べて、かなり視野が広がると同時に、自分のidentityをはっきりともつことができるようになったと思います。

また、私の近くのlabには中東やパキスタン、南米から心臓外科のトレーニングポストを得るために心臓外科のPIの元でresearchをやっている人たちが何人もいます。彼らは自分の国を捨てて渡米し、すでにUSMLEもパスし、英語はほとんどnativeと区別がつかないほど堪能ですが、それでもECFMGというハンデイキャップがあるため、将来のポストを得るために猛烈に仕事をしています。

こちらの外科医がresearchがあまり好きでないのは日本と同じだと思います。手術だけやっていれば、十分な報酬があり、生活が保障されているのに、どうしてわざわざ厳しいグラントにチャレンジして自分でlabをmanagementしようと思うでしょうか。

でも、医学の進歩を考えてみると、1800年代に、Billrothは「心臓を手術しようとする外科医は、外科医としての尊敬を失うであろう」といっていましたが、人工心肺、心筋保護をはじめとする先人の情熱的な研究によって、その200年後、今のような安全な心臓手術が完成しているのです。現在の心臓外科の技術の完成度はかなり高くなっていますが、決して完全な治療とはいえず、次世代を創造するためのresearchが求められていると思います。いくらでもresearchの必要とされる分野はあり、そこから次世代のbreakthroughがおきると信じています。

今やbasic scienceはmolecular biologyの発展によって、臨床医には非常に理解困難な領域に入りつつあります。しかし、researchの究極の目標は、治療のための人へのfeedbackであるはずです。日々患者さんと接して、今の医学の限界、問題点がしっかりわかっている臨床医の理解なしには、researchは正しい方向へは進み得ないと思います。

アメリカのresearchは、一部の有能なPIがお互いに専門を生かしてcollaborationし、各国から集まった優秀な外国人と、レジデント、学生からなる強力なマンパワーをマネジメントするというシステムが非常にうまく機能していると思います。でも、ただのマンパワーとして使われるだけで終わらず、外科医として臨床の舞台へ引き上げるためのresearchをマネジメントすることのできる立場を目指し、追求するーその可能性がこの国にはあると思います。

ワシントンのスミソニアン博物館には、本当に空を飛べると信じて行動し続けたライト兄弟のこと、本当に月にいけると信じて行動し続けたアポロ計画ことが展示されています。新しい時代の訪れを信じて行動し続けるところから、新しい世界が開かれます。

外科医として手術経験をつむことはもちろん非常に大切なことですが、医学の発展のためにどのような貢献ができるかというもっと広い視野でものを考えることができれば、今までに見たこともないような世界が開かれてくると思います。夢を持ってベストを尽くし続けていれば、必ず新しい市場を創造できる外科医としての未来が開かれると信じています。

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